(分担執筆)
産婦人科における電子カルテの事例
大橋克洋(大橋産科婦人科)
「電子カルテ WINE」の開発を始めたのは1985年です。当時は世の中に電子カルテという概念はなく、参考にするものもないままコンセプト創りから始めました。実用化にあたり目標としたものは次 の三つです。
- 紙のカルテでできたことはすべてできなければならない
- 紙のカルテより使いにくくてはならない
- 紙のカルテにできないことができなくてはならない
最初は「紙のカルテの方が便利」ということもありましたが、 三つのコンセプトが満たされて、 はじめて「紙のカルテより便利」になりました。
◆ WINE の歴史とマシーン構成・OS
- 第1世代 WINE(1989年)
Sun workstation 上に Emacs という UNIX のエデイターと Lisp 言語を使ってプログラムしました。これはキーボード入力で文字しか扱えませんでした。
- 第2世代 WINE (1993年)
4年間診療に使い仕様が決まったところで、NeXTSTEP という OS 上にオブジェクト指向言語を使って移植。画像も扱えマウスを使って誰でも使えるようになりました。この頃から WINE は高橋究医師との共同プロジェクトとなりました。
- 第3世代 WINE(1997年)
NeXT社がApple社へ吸収合併となり MacOS X へ移植。汎用データベースを基にしたより本格的なものにするとともに、部品化を進め自由度を高めました。
- 第4世代WINE(2002年)
さらに徹底的な部品化をはかり、MacOS X 上で稼働しています。高橋版 WINE と同じエンジンやパーツを使いながら、それぞれ異なるユーザインタフェースを構築してきました。WINE system の大橋版 NOA はノートブック一台の上に全システムを載せて動かすこともできますが、本来の使い方としては Apple 社の Xserve などのサーバマシーンにサーバなどを置き、各部署で iMac や iBook などをクライアント・マシーンとして使うのがコスト・パフォーマンスの良い使い方です。
◆ 紙のカルテでできたことはすべてできなければならない
WINE はサーバ・クライアント・システムとして構成されます。電子カルテのデータは、すべてサーバーからネットワーク越しに供給され、クライアント(サービスを受ける側)はデータを保持する必要はありません。ホームページでは、いろいろなところにあるサーバデータを手元のクライアント・マシーン上で InternetExplorer などの Web ブラウザーを開いて見ているわけですが、これと同じです。

(図1) 電子カルテ「WINE」
WINE ではホームページと違ってレイアウトや使い勝手を自由に変更できます。図は私のところの設定画面ですが、設定項目の種類やレイアウトを変えることにより、いろいろな用途のものを提供できます。
クライアントには「医事会計システム」「検査台帳システム」「看護記録システム」などいろいろなものが考えられ、「医師用クライアントでは全データを読み書きできるが、受付用では特定情報しか読み書きできない」ようなこともできます。
現在 WINE のサーバは同じ施設内に置いていますが、必要があれば Web 同様いろいろな場所に散在することも可能です。
◆ 紙のカルテより使いにくくてはならない
基本的に「主訴」「所見」などは自由な書式で入力できます。 しかし、忙しい診療中ワープロ式にキーを叩くのはとても非能率的なので、定型入力はメニューのワンタッチで済ませます。 記入欄左の「項目名」を表示したボタンを押すと(図2)のようなメニューが開きます。

(図2)メニューによる入力
図は病名欄のメニューを開いたところで、メニュー内容は図のように階層化して表示することもでき、使用頻度の高い順に表示されます。
自分の診療パターンをまるごと登録することもできます。たとえば「主訴」欄メニューで「妊婦健診」という項目を選ぶと、妊婦健診で行う内容一式が入力されます。上の「基本」「履歴」などの「見出し」を選択すれば、専用レイアウトのページが開きます。
コンピュータでは紙のカルテのようにパラパラめくることができず、大変いらいらさせられるものです。限られた画面の中でどう実現するか試行錯誤を重ねました。
- 通常は履歴リストから開きたいページを選びます。

(図3) 履歴リスト
左側の履歴リストをクリックすると、選択されたページが右側のカルテで開く。
- problem list として表示された要約からページを開くこともできます。

(図4) problem list
過去の記録から problem list を自動生成、全体を把握できる。
- 電子カルテならではのデータベースの利点を生かした検索ができます。

(図5) データベース検索
複数カルテにまたがった検索もできる。
このようにいくつかの方法が用意されるとストレスなく使え、紙のカルテを超えたことを実感します。
◆ 紙のカルテにできないことができなくてはならない
- ネットワークでスタッフ間の連係作業
受付で来院者のID番号を入力すると、(図6)のような来院者リストに追加されます。医師のコンピュータにも同様の来院者リストが表示され、現在何人くらいの患者さんが何分待ちで待っているかわかり、このリストからカルテを開くことができます。
眼科などでは受診者が医師や検眼、暗室などいろいろな部署を回りますが、現在受診者がどの部署にいるかも表示されます。
ちなみに WINE はひとつの診療科目に特化されたソフトウエアではありません。電子カルテの基本部分があり、そこへいろいろ必要な道具をオプションで組み込み自分なりの道具に仕上げることができます。

(図6)「来院者リスト」パネル
紙のカルテではカルテの実体はひとつしかありませんが、ネットワーク上の電子カルテにはそのような制約がありません。
診療申込書をもとに受付で新患情報を記入している段階で、すでに医師は記入された部分を見ながら診療方針を立てられますし、医師がカルテに記載している内容を見ながら看護師は注射や処置などの準備をし、医師が処方を書いた段階で薬局では調剤を開始できるなど、相互の位置関係はどんなに離れていてもネットワークに繋がってさえいれば関係ありません。
- マルチメデイアを扱える
電子カルテには、カラーの絵でも写真でも貼りつけられます。一番使うのは、略図にちょっとしたスケッチを加えてカルテに記入することですが、お絵描きツールで大変簡単に記入することができます。
あまり大きくない図や写真はこのように直接カルテに書き込めばよいのですが、レントゲン写真など大きなものはフォルダーに入れてカルテに貼りつけます。フォルダーのアイコンをクリックするとフォルダーが開いて写真をとりだせます。フォルダーには画像だけでなく、書類でも何でも入れてカルテに添付できます。
- 診療内容を自動解析し診療費をワンタッチで計算
レセコンと逆の発想で「医師は診療録を書くことに専念すればよい」「それを自動解析して診療費を算出する」仕組みになっています。開業医にとって「これを使うだけで電子カルテを 使う意味がある」ほど便利です。
診療費に関する記述は「治療」欄のボタンを押します。「処置入力パネル」で、薬剤名や処置名、投与量などを入力し「挿入」ボタンを押すと、内容が「治療」欄 へ挿入されます。直感的でわかりやすいインタフェースになっています。
通常は疾病ごとの一括入力を使いますので、図のような内容の入力もほとんどワンタッチです。 必要なら再度「処置入力パネル」から追加・訂正・削除で微調整し、最後に「集計」ボタンを押せば、治療欄の内容が解析・集計され最終行に診療費計算結果が挿入されます。
診療費計算はこのように電子カルテがやっているように見えますが、そうではありません。ネットワーク上の計算サーバへリクエストし、サーバでの計算結果が即座に電子カルテに反映するのです。
まとまった機能はこのように電子カルテWINEから極力別のオブジェクトとして分離することにより、メンテナンス性や柔軟性が格段にアップします。
現在の計算サーバは私の開発したものですが、いずれ日本医師会の ORCA へスイッチする予定です。このように簡単にサーバをすげ替えられるのも WINE の特徴で、医療情報交換規約 MML などがあるからできることでもあります。
その受診者の診療が済み、「診療終了」ボタンを押せば、受付の「来院者リスト」に診療費が転送され、会計を済ませるこ とができます。
◆ おわりに
この電子カルテは UNIX やオブジェクト指向開発技術を駆使し、優れた秘書のように「利口で手際の良い」システムをめざし、WISE and NEAT 略して「WINE」というプロジェクト名で、開発を進めてきました。
WINE System 大橋版「NOA」は長年無償で配布してきましたが、誰でも使えるようにするにはちゃんとしたサポートが必要ということで、しっかりしたサポート業者のチームをつけた有償配布版を2002年秋ころリリース予定です。
ご希望の方は、電子メールあるいは WWW でア クセスしてください。
|