元祖電子カルテ 医師の手作りソフト
WINE Project より生まれた「電子カルテ NOA」

大橋克洋(大橋産科婦人科)



 私が「電子カルテ」開発を始めたのは1985年です。当時もっとも 苦しんだのは、電子カルテという概念自体がこの世に存在しなかっ たため無から有を作る創造の苦しみでした。参考にするものがすで にあり、それを改良するのは簡単ですが「自分の作りたいものは何 か」から試行錯誤していく作業は結構大変なものでした。そこで最 初に目標としたのは以下の3つです。

  • 紙のカルテでできたことはすべてできなければならない
  • 紙のカルテより使いにくくてはならない
  • 紙のカルテにできないことができなくてはならない

 1988年から菅生紳一郎(産婦人科)、高橋究(小児科) が加わった3 名の共同プロジェクトとなり、このプロジェクトを私の命名で WIN E Project と呼ぶことになりました。これは「Wise and Neat」すな わち「お利口で手際の良い医療秘書」の実現をめざした電子カルテ 開発プロジェクトで、電子カルテ自体もWINEと呼んでいました。   非常に優れたソフトウエア技術者だった菅生先生は途中で去りま したが、現在はそこから発生した大橋版の NOA と 高橋版の WINE style がそれぞれに発育を続けています。

 NOA は「Neat Online Assistant」、すなわち「ネットワーク越し に診療を助けてくれる手際の良いアシスタント」をめざします。


○ 電子カルテ NOA に必要な機器


NOA は Apple 社の MacOS X で動きます。
NOA には入門版の NOA Light と本格仕様の NOA Professionalがあります。


 最小システムは iBook 一台で動きます。NOA Light ならこれで完結します。
Professional 版もこの構成で動かすことは可能です。


 本格的に仕事に使うなら NOA Professional とし、別にサーバマシーンとして PowerMac などを用意した方がよいでしょう。Pro 版はその他に WebObjects と OpenBase などのソフトウエアを別途購入する必要があります。そのかわり本格的データベースを使いますので中規模病院でも十分使えます。  電子カルテの大きなメリットのひとつは、ネットワーク上で他のスタッフと協調作業できることにありますので、本格的に使うには複数台のマシーンをネットワークで接続することが必須です。

 私は Windows は好きでないのでサポートしてきませんでした。しかしこれからは OS を超越し、誰でもどこで簡単に快適に使えるものをめざしています。次期バージョンは Mac でも Windows でもお好きなように、ということになるはずです。


○ NOA の特徴

 カルテほど診療科ごとドクターごとに要求が異なり多様なものは ありませんから、決まったひとつの電子カルテを「誰でもが便利に」使えることはあり得ません。  NOA の大きな特徴は、部品を自由に組み合わせ「ユーザの好みの電子カルテを設定できる」ことです。車のサスペンションやエンジンのように工場出荷時に組み込む部品と、スノータイヤやアクセサリーランプのようにユーザの手で簡単に組み込める部品があります。  NOA の基本部分はどの診療科にも依存しない白紙のようなものです。ここにユーザが好きな部品を組み込んでゆくことにより、特定の診療科にマッチした自分好みの電子カルテを設定できます。面倒ならサポート業者が有償で設定してくれます。一般のユーザの場合、多少のコストを払ってもサポートを頼んだ方が実際的と思います。


 上図が NOA の画面です(紙面の都合で上下サイズを実際より縮小しています)。年月日、主訴、などの項目はユーザごとに自由に設定できます。右上にある沢山の小さなボタンが、ユーザの手で組み込むことのできる色々な部品(道具類)です。基本情報、履歴情報などのシートもユーザが自由に追加・削除できます。  ワープロのように自由に文章を入力できますが、それだけではとても能率が悪いので、「主訴」などのボタンを押すとその項目に則したメニューが開き、そこから項目を選ぶことでワンタッチで入力できます。あるいはある病名や症候名などを選択すると、それに伴う傷病名、所見入力フォーマット、治療などを一括入力できます。内容は自由に登録できますので、それを鍛えることにより、キーを叩く頻度も少なく非常に能率良く入力できるようになります。


 検査や検診などの定型フォーマットは上図のようなものをユーザが簡単に作れますので、これを用いて入力します。とても見やすく入力も楽です。


 上図は処方箋発行のパネルですが、入力は初心者でも分かりやすく簡単にできるようになっています。その他にも紹介状作成、作図ツール、検査結果などの時系列表示などいろいろな機能があります。


 上図は検索パネルです。NOA のデータは本格的データベースに格納されますので、複数のカルテをまたがった検索も得意です。  このように NOA はいろいろなものが独立した部品となっていますので、機能アップも一部の部品を取り換えたり追加するだけで済んでしまいます。コスト削減と将来への発展性へ大きく貢献しているところです。  もうひとつの特徴は「シンプル・イズ・ベスト」そして「ストレスなく楽しく仕事ができる」をコンセプトとし、コンピュータを得意としないユーザでも簡潔に操作できるようデザインされています。


○ NOA の仕組み

 NOA Proffesional は、ユーザが手元で使う電子カルテ NOA の他に、ネットワーク上のどこかでサービスをするデータベース・サーバや診療費の計算をする計算サーバなどに分かれており、これらがネットワーク上で協調して機能します。  ユーザが操作する NOA はホームページを見る Web browserのようなもので、それ自身はデータを持ちません。ネットワーク上のどこかにあるサーバがデータを保存し管理します。  この他に、処方箋発行、紹介状発行、検索機能、簡単な作図など色々な道具を選んで自由に組み込めるようになっています。文書の束でも眼底カメラの画像でも、必要なら音声や動画でも何でもかんでもカルテに関連して放り込んでおける機能もあります。  データを MML(Medical Markup Language)という書式に変換し、異種の電子カルテとやりとりすることもできます。  診療データの管理や診療費の計算などは、別個のサーバにやらせていますので、例えば ORCA がサーバとして機能するようになれば計算サーバを ORCA にすげ替えてしまうなど、電子カルテの機能の一部を必要に応じもっと良いものに交換することができます。  その他の機能については紙面の関係上省略させて頂きますが、私の Web site で公開しています。 http://www.ocean.shinagawa.tokyo.jp/ の中の「電子カルテWINE」のページをご覧ください。


○ おわりに

 NOA は「誰でも簡単に使え」「ストレスなく楽しく診療できる」ことを目標としています。市販の多くの電子カルテと異なることは、「電子カルテとしては世の中でもっとも長い運用実績を持ち」「ユーザ自身が開発し毎日診療に使いながら改良を重ねていること」「プロのソフト屋さんのものとは発想の違う面が多々あること」です。  NOA Light はあくまでも私個人のボランテイアによるもので、私にできる範囲でのサポートです。  これに対し Pro の方は本格的に仕事に使う道具ですので、専門のサポート業者が対応します。またユーザ同士で情報やノウハウを交換しあうための Mailing list も運用しています。NOA はとてもシンプルにできていますので、一度使い方をのみ込んでしまえば、MLなどの情報をもとに有償サポートを受けず自力で運用することも可能です。  NOA Light は私にメールを戴ければ無償配布しますが、もし Light を使ってみようという方は、単に中をちょっと見ただけで「こんなものか」で終わってしまうのではなく、すこし食いついてみるつもりでメールをください。必ず毎日の診療に便利に使える道具となるはずです。  いかにシンプルとはいえ、診療というもの自体が複雑な要素を持ちますので、ある程度のみ込むまで努力は必要です(しかし車の運転ほどではありません)。




雑誌「メディカル朝日」2003.3月号掲載