Medical information processing by the UNIX operating system
大橋 克洋 大橋産科/婦人科
Keywords: small system, medical information, UNIX, computer, relational database, chart
当院はベッド数10床の産婦人科診療所であるが7年前よりコンピュータを導入 し実務に役立てて来た。当初スタンドアローンのコンピュータとBASIC言語を 用いて始めた業務も、UCSD PASCAL言語を経て、現在では UNIX 上で C 言語を 用いるようになり、院内にデータベース・システムと光ケーブルなどによるコ ンピュータ・ネットワークを構築して複数セクションからの同時アクセスを行 い、さらには電話回線による外部コンピュータとの交信も実現し、日常診療、 医事管理、人事管理、その他の情報管理へと発展させつつある。医療の現場におけるデスクワークの総てをコンピュータの端末上で処理する べく、また院内各部署での作業を同時並行的に処理しつつ、1つの流れとして 統合化された処理を行うべく医療用ワークステーションの実現に意を注いでい るが、その構築にあたっての考え方と当院における現況について発表する。
特に数値処理や多量のデータ処理などはその最たるものであるが、現在もっ とも注目している点はコンピュータがネットワーク化されることと、時分割に よる複数業務の同時並行処理、いわゆるマルチ・ワークステーション、マルチ・ タスクにより相互の待ち行列を短縮してチームワークによる協同作業が極めて 能率化された形で行われることであろう。
これが実現されることによるメリットは施設の規模に比例して大であるが、 一方で試行錯誤を繰り返しつつその実現を図ることも極めて困難になり、時間 とコストを要することとなる。特に人間サイドに近づいた使いやすいシステム の実現という面では困難が多い。このような点で、当院のような小規模施設は このプロジェクト開発には最適の環境といえるであろう。
この自宅のコンピュータ、 PC-9801は単なる端末として自宅に居ながらにして診療所のコンピュータを自 在に利用できる他、単独でも NEC 版 UNIX である PC-UX が走るので、UNIX 同志として接続し、診療所と自宅の間でファイルやプログラムの転送および独 立した運用ができる。

( Fig.1 ) Sytem configuration.
解消する方法のひとつがマルチウインドーで、この機能を利用すれば我々が 作業をする際、カルテと検査台帳を同時に開き、その上にさらにメモ用紙を置 いてメモをとったりというように、紙面を少しずつずらせて表示し同時にいく つかの作業を行うことができる。
現在使用中のコンピュータにはまだマルチウインドーはサポートされていな いので、ソフト的にマルチウインドーを実現している( Fig.2 )。
0.終了 1.一覧 2.追加 3.訂正 4.妊暦 5.妊管 6.計算 7.予約 8.会計 9.保守 +----------------------------------------------------------------------+ | [診療費計算] 0101-2500 クドウエミコ (43才)健保本人 | +----------------------------------------------------------------------+ | 診療行為 単位 点数 回数 負担額 25 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10| |11ショシンリョウ 150 x 1 = 150 0 . . 1 . . . . . . .| |12サイシンリョウ 39 0 1 1 . 0 . . . . . . .| |13マンセイシッカン 220 0 0 . . . . . . . . . .| |21アセチル 200mg 6T 17 x 5 = 85 0 . . 5 . . . . . . .| |60EKG(12ユウドウ) 150 x 1 = 150 0 1 . 1 . . . . . . .| | ショホウリョウ 12 x 1 = 12 1 | | | | | 健保(397点 x 1割 = 397) + 自費( 0) = 窓口負担( 397) +======================================================================+ | [ 来院者リスト ] (C) Copyright K.OHASHI | |======================================================================| |NO:ID 名前 本人 家族 国保 自費 未収 合計| |01)03234200 ヤマダ ミチコ . . 520 . . 520| |02 01012500 クドウ エミコ 400 . . . . 400| |03 05125601 ヤマワキ エミコ . . . 3500 -500 3000| |04 12052802 スズキ ショウコ . . . . . 0| |05 08255600 ヒグチ サチエ . . . . . 0| |06 06054800 オオシマ ミチコ . . . . . 0| | | | | +----------------------------------------------------------------------+ | 850603 合計( 6件 ) 3920| +----------------------------------------------------------------------+ ( Fig.2 ) Multi Window display
このようなことから当院では院内数カ所にコンピュータの端末を置き、何人 もが同時に中央のコンピュータを使用することができるようにしている。
( Fig.3 )にその一例を示す。%記号は UNIX の命令待ちプロンプトであるが、 ここで mail と入力してやると自分宛てのメールの内容が着信時刻のタイムス タンプを添えて表示される。
これは自分のコンピュータにファイルすることもできるし、ワープロなどで 編集したり、他への電子メールとして転送したり、プリンターへ出力もできる。 将来的には電話回線を介したネットワークで目的を共にする者と共同で共有の 知識ベースを構築し能率的に運用することを考えている。
また携帯用コンピュータと音響カプラーさえ所持すれば、遠方の公衆電話か ら院内のコンピュータを操作することも簡単にできるようになった。
% mail From takahashi Sun Jun 2 15:38:56 1985 My schedule is as follows -- Mon Jun 3 1800..2000 meeting of JMIS -- Tue Jun 4 0900..1500 duty in hospital -- Wed Jun 5 nothing... Tell me your schedule bye ... ( Fig.3 ) Electronic mail
これによりソフト開発の省力化と操作方式の統一化、さらにはプログラム間 のデータの共有化がはかれる。
原理は極めて簡単ですべてのファイルの最初の2行をヘッダーレコードとし、 この中に1レコードにおける各項目の長さ、項目名、数字文字の区別その他の 情報を入れておく。こうしておけば、どのようなアプリケーションから読んで も最初のヘッダー部分さえ読めばすべてのファイル構造がわかり、アプリケー ションごとにファイル構造を固定する必要がまったくない。
まず決定しなければならないのは、オペレーテイングシステムで、現在この ような目的に比較的マッチするのは MS-DOS, CP/M, p-System, UNIX などがあ るが、ここに述べて来たような機能をすべて実現する能力のあるものという観 点から UNIX がベストと思われる。
次に言語で、これも移植性と能率の高さ、そして UNIX だけでなく MS-DOS なととの相性の良さから C 言語を採用しているが、自動診断機能などの実現 に LISP, prolog, small-talk など人工知能の開発に向いた言語の使用も考え ている。
% cat address_book | grep Tokyo | sort | tee Tokyo_file ( Fig.4 ) shell script( Fig.4 )は shell script といわれるものの一例である。cat は以下のファイ ルを出力せよ、grep はファイル中以下の文字の存在する行を選別せよ。sort は昇順に並べ換えよ。tee は画面への表示と同時に以下のファイルへ書き込め というもので、この個々の命令をパイプと呼ぶ | 記号で結ぶとすなわちファ イル address_book の中の Tokyo を含む行のみを抜き出し昇順に sort して 画面に表示させつつ Tokyo_file へ書き込むと云う処理をする。プログラムを 書けばかなり複雑な作業をたったの一行で処理してしまうわけである。
UNIX はソフト開発向けには優秀でも事務作業には向かないと云う意見を聞 くことがあるが、決してそのようなことはなく、初心者用の環境を設定するの も非常に容易で、医療の現場でも使いこなされるようになれば大きな力を発揮 するであろう。
またホストコンピュータの機能を利用しつつ同時にパソコン機能を利用し、 さらに便利な使い方ができる。たとえば現在のホストの専用端末ではカラー表 示機能はないが、端末として使用している PC-8801 ではカラーが使える。 すべての業務をホストコンピュータに行わせることは効率上望ましいことで はないので業務の集中化と分散化とを上手に使い分け、内容によっては端末を インテリジェントとして使用し、端末上のプログラムではスピーデイーに処理 する事も是非必要であろう。
login:という表示が現れる。コンピュータシステムが利用者にシステムへの登録を 求めているのである。ここで自分の登録名をタイプするとコンピュータは暗証 番号の入力を求めてくるが、正しい暗証番号が入力されなければシステムは
sorryというメッセージを返し利用者の接触を許可してくれない。これは特に一般 電話回線に繋がったシステムの場合不可欠な機能である。
login: ohashi password: good morning ohashi!! have a good day.システムが利用者を確認し使用許可がおりると、このようなメッセージが返っ てくる(暗証番号の部分は第三者に読まれないように、タイプしても画面に文 字がエコーバックされない)。
図の一番上の行は、メニューバーで0から9までの内のひとつをテンキーのワ ンタッチで選択できる。必要があれば、さらにその下位のメニューバーが表示 され僅か2回のキー操作で10x10=100の操作が選択でき、ファンクションキーを 使うよりも能率的である。
診療を行いつつ、( Fig.2 )上段のウインドーで診療行為をデスクの上のキーボー ドから入力していくと、自動的に診察料が計算されて来院者リストに書き込ま れるが、これは受付の端末にも( Fig.2 )下段と同様の画面で表示されるので、 患者が診療を終え診察室を出ると直ちに会計を済ませて帰ることができる。 現在のシステムではここの部分はいわゆるレセプト専用機と同様の機能しか 持っていないが、現在開発中のソフトが稼働するようになれば、後述のように 診療録としての内容を入力するだけで窓口会計情報は自動計算するようになる はずである。
計測値の入力については、個々に正常値を記録したファイルと照合しつつ表 示していくのでデータの入力と同時にそれが正常か否かは一目で判断される。 また妊娠中にチェックすべき検査項目も記憶されており、過去にどんな検査 を行ったか、そして検査値は正常か否かなども照合しつつ本日チェックすべき 検査項目を表示してくれる。
この妊婦管理ファイルのデータを利用して分娩予定者の分娩予定日ごとのリ ストなども出力できる。

( Fig.6 ) Gestational Calendar
Cut 2 pieces, left side is for pacient and right for chart.
多用される名称などは、略号辞書に登録しておけば略号でタイプするだけで ワープロと同様に自動的にフルネームへ変換してくれる。 データは当人が扱った分でかつ当日のものだけしか見ることはできないよう になっており、財務情報がみだりに漏れることを防止している。 またシステムの中のファイルごとあらかじめ決められた所有者でなければ、 みだりに他人の所有するファイルを扱うことはできず、さらに必要であれば、 ファイルを暗号化する機能も有する。
日付や、勘定科目、摘要などについて一定の条件のもののみを表示したり、 それらについてのみの累計を表示することもできるので、一定条件での取り引 きなどは簡単な操作で見ることができる。一年間のリース関係の一覧と累計な ども数分間で表示したり、新しいファイルに書き込むことができる。もちろん、 このファイルをデータベースへ取り込んで自由な処理をすることもできる。
看護婦勤務の自動割当は、6年前 BASIC で記述したものを UCSD Pascal に 移植し数回の機能アップを経て現在にいたっているもので、職員の希望条件を 基に極力それを満たし、かつ公平になるように夜勤や休暇などを自動的に割り 当てるもので、これもかなりの省力化を達成している。 以上当院でのシステムの概略について述べたが、ちなみに初めてパラメデイ カル (受付事務および時により看護婦)に受付でのコンピュータシステムを操 作させるに当たっての操作説明はわずか10分以内であったが、翌日から彼女は コンピュータによる業務を支障なくこなしている。これもこのシステムの特徴 のひとつで、大きな理由はソフトによる操作の簡略化であろう。
多くの操作は極力テンキーのみで操作できるように配慮されている。多くの パソコンやオフコンのソフトで見られるファンクションキーの使用よりはテン キーをファンクションキーとして使用する方がずっとスピーデイーで合理的と 考えている。
従来の手作業に比し、メリットとして挙げられることは
デメリットとしては、システムダウンなどにより、大事なデータが一瞬のう ちに失われる可能性があるのでデイスクのコピーとハードコピーを保存してお く必要のあることであろう。
いわゆるテキスト・エデイターあるいはワープロと同様の操作で、診療をし ながら診療行為をどんどんタイプしていく。追加、訂正、削除、字句の移動な どは自由自在で、ここでの大きな特徴は以下のごとくである。
( Fig.7 )にそれを示す。上段のウインドーは診療録であるが、ここはフリーテ キストとしてワープロと同様の感覚で文章を記述でき、ファイル指定をすれば 一行が一つのファイルのレコードに割り当てられる。( )のある行がそれであ る。
0.quit 1.list 2.add 3.edit 4.del 5.find 6. 7.RDMS 8.calc 9.etc DATE ID RECEIV Rp 850602 03234200 adona 10mg 3t: transamin 250mg 6c/3x 5 +======================================================================+ | 03234200 ヤマモト ヒロコ age(26) comment(allergy: PC )| |======================================================================| | = 850602 Wed 09:15..09:43 | | - Subject | |genital bleeding: | | - Object | |TRICHO(0) CANDIDA(0) WBC(1) RBC(0) PAP( ) FINDINGS( )| |RBC( ) Hb( ) WBC( ) Ht( ) | |BBT is hypotherme phase: | | - Assessment | |disfunctional bleeding ?: | | - Treatment | |peranin depot 1A/im: | >Rp(adona 10mg 3t: transamin 250mg 6c/3x 5 )| | - Plan | |If bleeding are continued then curettage. | |Explain about smear test. | | | +----------------------------------------------------------------------+ [ DBNS ] FILE:DRG/rp85 85/700 |------ -------- ------ -----------------------------------------------| |850602 01012500 ferogra 2c: eltrip 4t/2x 14 | |850602 03234200 adona 10mg 3t: transamin 250mg 6c/3x 5 | |850602 03252100 adona 10mg 3t: transamin 250mg 6c/3x 5 | |850602 04056200 050602 pontal 6c/3x 3 | |850602 05255301 dunlich 2c/2x 5 | |850602 06055800 ferogra 2c: eltrip 4t/2x 14 | +----------------------------------------------------------------------+ ( Fig.7 ) Electronic chart一番上の行がメニューバー、2から3行目が入力作業領域で、現在上段ウインドー 内 13行目の処方についての入力を行っているところである。下段のウインドー は、この処方録ファイルを単独にリレーショナル・データベースで呼びだし表 示したところである。
たとえば検査室で下段ウインドーのごとく検査ファイルを呼びだし値を入力 すれば、自動的に上段の診療録の中の該当項目に値が現れる。 この診療録のコンピュータ化については、ある程度の開発が進行した時点で 改めて発表したい。
通常、ファイルを他のアプリケーションで利用しようとすると専用ソフトを 書きおこさなければならず、その費用と労力は大変なロスとなる。また、操作 の上でも一定パターン化されるため初心者にとっての利点も大きい。
最近は他の病院への紹介患者の所見のやり取りを漢字電子メールで行う試み も始め、大変便利をしている。反面、外部からのコンピュータの侵入に対して は今後十分な対策を講ずる必要があると思われる。
しかしソフトについて述べれば、このようなシステムを外注すればハードに かかったコストの数倍は下だらないであろう。
これを他の医療施設でも利用できるかという点について述べれば、その場合 にはどのような使い方をしてもシステムエラーを発生しないような、きめ細か いサブシステムを付加してゆくことが必要であり、現在著者にとって自分のシ ステムの開発以上に割く時間のないのは誠に残念である。
したがって現状では、実験的位置付けで評価していただければ幸いであるが、 将来的にはほとんど使用説明書を読む必要がなく、誰でも有効に利用できる汎 用性の高い道具へと発展させていきたいと考えている。
稿を終わるに当たり、色々な面で刺激と励ましを頂いた東京慈恵会医科大学 情報処理研究室メンバー諸兄に感謝の意を表する。