電子カルテが医療を変える ミス防ぎ、情報もガラス張り

 患者の診療記録(カルテ)を電子化する医療機関が増えている。医師ら医療関係者のみならず、患者がカルテを共有できる可能性が広がってきた。従来、カルテは一つの医療機関の中だけで管理され、自由に見ることはできなかった。電子化が「透明で分かりやすい医療」につながる、と期待を寄せる専門家は多い。

 大阪府和泉市にある耳鼻咽喉科(じびいんこうか)の老木(おいき)医院は、それまで医師が紙に書いていた診察の記録を、2年前にコンピューターに入力するシステムにした。

 「今日は、どうしましたか?」「1週間前から、右の耳が聞こえにくいんです」。老木浩之院長は、話を聞きながら、パソコン画面の単語リストから「1週間前」「右耳」「聞こえにくい」をチェックする。これだけで記録できる。

 99年4月、厚生省(当時)がカルテの電子化を認めたのを契機に、導入する医療機関が増えている。
 保管場所や業務の効率化などが主な狙いだったが、予想以上の効果があった。ミス防止と情報共有化だ。

 従来の紙カルテでは、手術歴やアレルギーなど、重要な注意事項は、表紙に赤で記入したり、付箋(ふせん)をはったりして注意喚起していたが、見落とす危険があった。電子カルテは、画面上にいつも表示できる。老木さんは「注意事項の見落としや処方のミスなどがずいぶん防げます」と話す。

 患者は、医師と一緒に画面を見ながら説明を受けられる。治療内容を理解しやすく、説明を印字して自宅に持ち帰ることもできる。

 総合病院では、患者が複数の診療科を受診しても、カルテを運ぶ必要がなく、診療科や看護、調剤など各部門が一体となったチーム医療に力を発揮する。

 病院の枠を超え、地域でカルテを共有する広域ネット化も始まった。熊本市では01年、総合病院や診療所、検査機関、患者が参加して医療情報ネットをつくった。

 患者のカルテは、情報センターに蓄えられる。例えば、総合病院で手術した患者が退院後に自宅近くの診療所にかかる場合、検査データや手術をした医師の所見などがすべて診療所に引き継がれる。「1地域1人1カルテ」だ。患者は自宅のパソコンで自分のカルテを見ることができる。現在、18の医療施設が参加、3000人の患者が登録している。宮崎県にも同様のネットがある。

 東京都医師会も来春、都内全域で始める予定だ。東京都医師会の大橋克洋理事は「カルテは、本来患者さんのもの。電子カルテの発達で、将来は、患者さんの許しを得た上で、医師が記入するという形になっていくでしょう」と話す。

 しかし、課題は多い。

 神戸大病院医療情報部の坂本憲広教授は「電子カルテには、安全基準ができていない」と指摘する。

 一般の医療器具は、厳しい安全基準を満たさなければ国の製造承認を得られない。電子カルテはデータ変換の正確性や改ざん防止対策などを評価する基準がないまま広がりつつある。

 広くやりとりするには、データの互換性が欠かせないが、統一規格はない。京都大病院医療情報部の吉原博幸教授は、ビデオの録画方法に例えて、こう話す。「どの会社が作ったデッキでも、映像を再生できる。電子カルテでも、こんな基盤整備が欠かせません」

 医療や情報の専門家が集まる複数の研究会が、国内の統一規格や安全基準作りに向けて議論している。 (2003/12/13)


2003-12-13(土) 朝日新聞 夕刊

大橋理事(注)

上の「カルテは本来患者さんのもの...」というコメントは 正しい記事でない。

正しいコメントは「カルテは医療機関の業務用書類。 患者さんは(電子)健康手帳のようなものを所有し、 そこへ主治医が患者さんの同意を得て医療内容を書き込むようになるだろう。 そしてその(電子)健康手帳を医療情報銀行のようなところに預け 患者さんの責任で管理すれば、 世界中どこの医療施設へ行っても自分の医療データを利用できる」 だったが、コメントが正しく反映されず記事になっている。